裁判と報道、それから司法のこれからについて。2007年09月22日 03時30分19秒

すまん、おいらの意見は概ね正反対。

偏向報道について。

ブログの流行により、報道に対して関係者がネット上で真意を明かしたり、実際の言論の詳細について追加検証を行ったりといった記事が時折見られるようになった。しかし、全般としては、現行の新聞・TV 報道を見た感想を述べるにとどまるブログがほとんどであるように思う。

はてなブックマークのようなソーシャルブックマークがもっと普及していけば、そういった報道への感想の言及はそっちに流れていくことになるかもしれない。mixi のような馴れ合いメディアとしての SNS や、Twitter のような、ブログよりも軽いメディアが使われるようになっていくことで、そうした流れはますます加速するのかもしれない。

もっとも、当の新聞・TV といった報道系メディアは、まだまだブログ上で見られる言説のほとんどがジャーナリズム性の薄いもので、ニュースの情報を握っていてジャーナリズムを発揮するイニシアチブは自分たちにあるという自負を持っているように思う。実際、政治の場における記者クラブによる締め出しなど、国民にとって重要な情報の取り扱いは主要新聞・TV局各社に牛耳られており、手出しできない状況は崩されていない (もっともそんなマスコミの偏向報道を嫌がって記者会見の全文を公表しちゃう小泉首相官邸サイトなんて例もあったりしますが)。

裁判の傍聴録なんかもその急先鋒で、マスコミは自分たちの押す論調を曲げずに済ませるための最も都合の良いトリミングを図って、記事として纏め上げたりするわけです。

この辺の記事も、参考までに、ぜひ、読んでみて頂きたいと思う。後者の例の発言については、確かに被害者感情を逆なでするものであり、不適切であるとは思うけれども、前後の文脈を切り捨てて報道するマスコミのやり方もまた、適切であるとは到底思えません。

マスコミは率を取るために、多くの国民の感情に沿う方向で物語を組み立て、報道記事をでっち上げています。もっと言えば、どういうシナリオを描けば国民感情をより効果的に煽れるのか、といったことを熟知しています。一方で、この事件ではありませんが、秋田県藤里町の連続児童殺人事件について、秋田県は県内に東京から派遣されている弁護士一人しかいないいわゆる弁護士過疎地であり (Sun Sep 23 20:00:54 JST 2007 - 訂正: コメントにて小倉氏より指摘がありました。県下で一人というのは事実ではないようです。詳細は記事文末を参照)、しかも裁判前の準備調査の結果が、後から派遣された別の弁護士に引き継がれていることを指摘した NHK の報道に、これ、ジャーナリズムとしてあるべき当然の指摘であるにもかかわらず、とんでもない良心を感じてしまうのであります。

弁護士は増やすべきか?

結論から言えば増やすべきです。日影なすやんはこれ以上質の悪い弁護士を増やすべきではないとしていますが、実際弁護士の質が悪いのは、法について責任を持って語れる人材が極端に少ないからという事情もあるのではないかと思っています。少なくとも、先に挙げた秋田の例のように、県内に自分ひとりっきりしか弁護士がいないという状況下で何年も働いていれば、知識も思想も仕事に対する姿勢でさえも偏向してしまうのは致し方ないのではないかと思います。そういう意味では、メディアに出て積極的に発言している橋下弁護士の姿勢には敬服します。発言内容は微妙にあれですが。

要は橋下弁護士がアフォだと思うならば同じくメディアに出て看破してやればよいのです。そういう弁護士がもっと出てきたっていい。法に関する話題が盛んに取り交わされるにつれ、国民の法に関する関心も高まるでしょう。そうした下地は、今後陪審員制度を運用する上でも非常に大切なことであるはずです。

立法に携わる国会議員の中に、司法経験者が少ないというのも問題です。立法のための人材を育成するという意味でも、司法資格の門戸を広げることは重要です。

もっとも、司法試験を簡単にすればいい、という考え方には、安直さを感じます。そういう問題ではないだろうと思います。実際、現行の難しい司法試験を通過して、アフォなことをやっている弁護士というのは多くいるのですから、そこが必ずしも重要ではないというのは明らかなはずです。

個人的には、短答式・論文式含めて、ペーパーテスト一発で合否を判定するというやり方自体に無理があると思っています。問題の質を変えずに合格基準を下げ、それを通過した人間に対して、3年以上の現場における補助実務を義務付け、その間に挙げた功績等により資格の交付を判定する、といったような、もっと現実的な方法に切り替えるべきなのではないでしょうか?


Sun Sep 23 20:00:54 JST 2007 - 追記

コメント欄にて小倉秀夫さんよりご指摘いただいたように、「秋田県内で弁護士が一人しかいない」という記述は誤りでした。NHK のニュースについてはうろ覚えであったため、情報が正確ではありませんでした。大変失礼いたしました。

名簿の中に「藤里町」が無いので、「秋田県内で一人」ではなく、「藤里町内で一人」と言っていたのかもしれません (そもそも、「一人」という人数も、もしかしたら記憶違いだったかもしれません)。

コメント

_ なす ― 2007/09/22 13:13:49

弁護士を増やすなってのは、様は安直に考えすぎだろってことですよ。
現状、弁護士の絶対数が少ないのは明らかだし、それに対して何らかの手を打たなくてはならないのも確か。
それを、単純に数を増やしゃいいんだろとするのでは意味がない、と。
第一、弁護士からですら反対意見が出ていると言うことは、(自分の仕事が減ると言う利害は別として)どこか問題があると言うことだろうし。
ともあれ、今回の記事に関わらず、と言うことで。
マスコミがどう言う報道をしようと、そもそもそんなものたいして信じてもいないので(だから真偽はどうあれと言う枕言葉をつけた)俺的にはなんとも言う気はないしね。

TBは、限定解除したからもしかしたら飛ばせるかも・・・。

_ 小倉秀夫 ― 2007/09/23 11:06:49

 日弁連のウェブサイトによれば、現在59人の弁護士が秋田県内に事務所を置いています。

_ @DRK ― 2007/09/23 13:54:55

”できる”人が少ないんだわな。頭数はどうとでもなる。問題はどうやってできる人間に教育するか、だ。
目先の人材難で対策を急ぐと手痛いしっぺ返しがあるのは、数年後に医療界が示してしまうんじゃないかな。

_ T.MURACHI ― 2007/09/23 22:18:32

>なす
tb やっぱり飛ばせなかった。多分アサブロが管理画面とブログ記事の URL が別ドメインになるようにしているせいだと思う。

マスコミ報道については、「自分は信じてないから大丈夫」という人がネット上では (特に 2ch、はてな界隈では) 多いんだけれども、実際そういいながらも、マスコミが何気なく前提条件として文脈においている事柄がそもそも事実に反していたり、あるいはそうせざるを得ない事情についてまで踏み込まずに語られる価値観に同調してしまっている可能性まで気にしていない人がほとんどだと思う。
おいらも最初に差し戻し審での弁護側の主張内容 (口を塞ごうとしたらスイーパーホールドになっちゃったとか、ドラえもんがどうのこうのとか) を聞いたときには見苦しいなとも思ったし、死刑反対論者は弁護士としてじゃなくて立法府に向けて活動しろよとも思ったけれども、実際のところは別に死刑反対だから集まったってわけでもないのかもしれないし (でもマスコミは彼らが死刑反対論者だと報じ、それを前提にしてものを語る)、主張内容を見苦しいと思ったのも、この事件の過去の公判についてほとんど関心を抱いて追ってはいなかったからというだけで、実際には殺意を否定するという方針自体は一審から基本的には変えていないようだし (でもマスコミの多くはあくまで「新供述」として報じている)、精神鑑定についてもまるで演出・やらせなんじゃないかという論調がマスコミを中心に根底に流れちゃってるところがあるけど、そんななかで産経新聞記者が非難を沿えてリークした情報に対して、実際に鑑定を担当した野田正彰氏が同じ産経のイザで反論コラムを寄せてたりする。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/trial/73545

そうした当事者たちの行動とそれに伴う思いがある中で、断片的な報道に乗せられて不毛な野次を飛ばすのは、少なくとも相手が読む可能性のあるネット上では控えるべきなんじゃないかなと思う。間接的な形であってもね。

>小倉秀夫さま

ご指摘感謝します。記事にて訂正・追記させて頂きました。

Hotwired Japan で開設されていたブログが閉鎖されてから久しいですが、今でもネットのどこかで情報発信されていらっさるのでしょうか?

>@DRK

なんか IT 業界のことを言われているようでどうにも。。。
そりゃあ、文理どころか PC 触った経験すら問わずにとりあえず新卒でそれなりに学校でちゃんと勉強してる子を雇っておこうなんてことをやってりゃあ、できないどころかやろうとすらしない人が増えてしまったって仕方ない罠。
でも入り口から即戦力だけを求めて結果として人員が増えないという状況を作ってしまえば、その業界全体が社会として育たないというのも致し方ないことなんじゃないかと思うのですよ。
医療については国家資格の難しさ以前に、まず教育に掛かる費用の問題があるし、何よりすべての医学を志す人間に、数学の問題を解く能力が高いことを求めている。各大学の医学部が今求めているほどの数学的理解力に至らない人でも、外科的処置を行う能力は十分持っているという人はそれなりに多くいるかもしれない。医療分業による学科や資格の細分化で有能な人材はもっと賄えるかもしれないという可能性についてはどれほど考慮されているのか? (もちろん、分業が進み過ぎればそれに伴うリスクも出てくるだろうから、これが正解だと言い切ることはできないけど)

実際、裁判官や検事・弁護士にだって得意分野・不得意分野はあるわけだし、実際問題として情報処理やセキュリティー問題に詳しい司法関係者は決して多くない。法律の分野ごとに資格を細分化するというやり方も、可能性としては考慮されるべきなんじゃないかとも思うのですよ。

_ @DRK ― 2007/10/04 09:21:03

追記

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B8%E6%B3%95%E4%BF%AE%E7%BF%92
インターン制度のようなものはあるらしい、が、期間の短縮化が問題になっているのは同じことのようだ。

試験合格=免許取得、というのはいかにも当たり前のように思えて自分もスルーしてしまったが、厳密にはそれが絶対条件ではない。
つまり試験に合格しても免許が交付されない事は、在り得る。

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