「ブラック会社」がブラックにならざるを得ない社会的背景2009年07月10日 01時30分39秒

どこかのうんこブログがリンク先記事への回答として「雇用流動性が低いからこうなる、解雇規制を撤廃すべきだ」などと極めてうんこな事をほざいていらっさいますが (腹立たしいのでいちいちリンクしません)、まぁそれはそれとして。

ブラック会社、あるいはブラック企業というのは、要するに労働環境が劣悪で、しかも社員の多くがそうした状況に疑念を抱かない、あるいは諦めてしまっている社畜ばかりである、といったような状況に陥っている会社のことを指し、そう言った現象について、経営者対労働者の構図で物を語る人が多かったりする概念です。

実際のところ、こうした現象というのは必ずしもそのような単純な物であるとは限りません。特に、SI 業界に関して言うなれば、顧客企業との軋轢、上流・下流やコンサルなどといった工程を切り分けるスタイルによる分業と、それに伴うピラミッド型の下請け構造、中小企業への支援制度が手薄な行政、などといったものが背景に横たわっており、その結果として、不利な条件で事業を請け負わなければならない零細ソフトハウスの苦渋、ご贔屓さんとの政治的おつきあい、さらには会社規模でいえば一流の筈なのに部署や取引先によって明暗がくっきり分かれるなんて事もざらにあったりする訳です。

もちろん、労基法がないがしろにされ、労働者の権利が踏みにじられている現実は、どうにかする必要があるでしょう。内部告発が増えてきているのは好ましいことですが (今のところニュースになっているのは飲食業界が多いですが)、罰則規定を強化し、労働者の権利侵害が悪であるということを政府の態度として明確にすべきだというご意見は、確かにごもっともであると思います。しかし、それとセットで同時に解決して欲しい問題がいくつかあるのも事実です。

ことソフトウェア業界に関していうならば、以下のような問題が横たわっている訳ですが…

  1. 作業領域が工程によって分断される為、下請け構造が根深く、企業間の上下関係がはっきりしてしまっている。
  2. 企業の技術力を推し量る基準が存在しない為、無名な中小零細企業は営業面において不利を強いられている。
    • 品質管理能力については一応 ISO 9001 というのが存在するが、そもそもテストを切り詰めろなどといった品質をないがしろにする要求をしてくる顧客が未だに多く、業種によってはあまり重視されないケースも少なくない。
  3. システム開発の適正価格が理解を得にくい為に、市場自体にダンピングの発生しやすい土壌ができあがってしまっている。
    • これに対し、システム構成を無駄にリッチにする、オープンではない技術を多用し、保守を入れ替え不可能にして独占する、などの (顧客側の無知を逆手に取った) 悪質な商習慣も横行している。
  4. 起業支援が手薄な為、新規に事業を興そうとするものが少なく、いても先立つものがない為に、SI 事業の下請けの末端として仕事を受けざるを得ないという状況がある。

1 と 2 は中小企業支援の問題。公正な取引が阻害される要因というのはいろいろと考えられる訳で、そのうちのいくつかは政府による規制によって状況をある程度改善することは可能かも知れません。一番の問題は作業範囲が工程によって切り分けられることであり、上流を請け負う企業が設計書を仕上げて持ってくるまで下流を請け負う企業がコーディングの作業を開始できないとか、納期までの時間の内の大半を上流が食い潰してくれやがったのに最終期限は延ばして貰えないであるとか、顧客が直接お金を払うのは上流を請け負う企業だけなので上流が見積もりを誤ればとばっちりを食うのは下流であるだとか、そういう差別要因を育む諸悪の根源なのだから、作業範囲を工程で切り分けること自体を不公正な取引であるとして規制してくれればそれが一番公正な世界を創り出す近道であるようにも思うのですが、実際のところ、うちには顧客と直接交渉してシステムを提案できるような人材はいない、仕事をくれる上流企業から仕事を貰えなくなるような規制ができたらうちは商売できなくなる、なんていって尻込みするソフトハウスも少なくないだろうから、いきなりそんなドラスティックな改革をやってのけるのも難しいんだろうなぁとも思ったりする。

技術力うんぬんに関しては、実際のところ、個々のスタッフの経歴がすべて、というのが実情。後は取得した資格とかですかね。で、「A と B と C という技術を使えば、n 千万円で実現可能です。当社であればこれらの技術を経験しているスタッフは揃っています」なんつって営業したりする訳ですが、こんなのはっきり言って顧客は理解できる訳がないので、結局は企業の知名度で選ぶか、価格が一番安いのを選ぶか、ということになってしまう。 3 の適正価格が理解されない問題とも通じていて、顧客企業自体にしっかりした情報システム部門があったり、有能な CIO がいらっさるようであればそれほど問題にはならないし、そういう体制はもっと普及すべきだとは思うのだけれども、すべての顧客にそれを求める訳にも行かず…。個人経営の飲食店とかだってなんらかのシステムが欲しいと思うことはあるのだろうけど、そういうところにシステムを構築することで、十分に食っていけるだけの報酬が得られるような世の中になっていないことが、独立開業を難しくしている要因の一つであるとも言えたりする訳で…。

4 は起業支援の話なのですが、これを求めることが国際的に見て贅沢なことなのかどうかおいらは知らないのですが、独立開業を夢見る人のご意見として、会社に縛られることなく、自分のペースで仕事ができる、という誤解があるのだけれども、それを実際にかなえるには、納期などに縛られない商売、すなわち、オーダーメイドではない金になる商品を既に持っていて、それをコンシューマーに向けて販売、もしくはサービス展開する、といった商売で勝負できる場合に限られることになる訳です。でも、それまで一労働者としてあくせく働いていた人が、そういう商品を作り出す時間を割くこと自体が難しかったりして、で、そんな時間を得る為に脱サラしてみたはいいものの、勝負になるようなものができあがらないうちに貯金が底をつき、あえなく派遣で仕事を探す、なんてのがありがちなオチだったりするのが実情です。これは SI で下請けやってる中小零細企業に関しても同様で、仕事が多くて忙しいときは時間的余裕が無く、仕事が少ないときは少ないときで今度は資金的余裕がなくなってしまう為に、なかなか自社開発に踏み切れずにいる。そういった辺りをうまいこと救済するような制度とかがあったりすると、コの業界ももうちょっと活気づくんじゃないかなぁとか思わなくもなかったりする訳です。

IPA が未踏IT人材発掘・育成事業なんてのをやっていたりしますが、これはこれで良いのですが、これだとどうしても凄い発明をする英雄的存在を発掘するアプローチ、ドラクエで各国の王様が勇者を捜し出すアプローチになってしまっていて、業界全体の労働者層を救済するアプローチにはなり得ないし、独創的な商売を育む土壌もなかなか根付かないのではないかとも思う。かといって、日の丸検索プロジェクトみたいなのは一部の企業を利するだけで、これも業界全体の活性化を促すものにはなり得ない。もっと、ソフトウェア企業がこれから作ろうとする物の価値を認めあえるような、財源とコミュニティが一体化したような社会的枠組みがあったりすると面白いんじゃないか、とか思ったりもするんだけど、庶民様の血税とやらでそれを実現するのはやっぱり難しいんだろうな、とも思う訳で…。

相変わらずまとまらないけれども、おいらの今のところの思考は、とりあえずこんな所。

で、せっかくなのでこぼれ話。おいらが今、会社として請け負っているお仕事なのだけれども、取引先の都合で、別の会社を1社はさんで契約して貰っている。

何でそんなことが必要なのかというと、事業を通して経費が適切に計上されているかどうかが審査される訳だけれども、事業全体の規模があまりに大きい場合、そのうちのいくらかを、うちみたいな無名の零細が請け負っていたりすると、それが使途不明金として疑われてしまうケースがあるからなんだそうだ。

結局の所、法が民間に対して信用を求めていて、それがうちみたいな零細には、結果として障壁となって立ちはだかっていたりする。法人は国に登記され、その事業内容も合わせて管理されるのだから、本来ならばその国こそが企業の信頼を担保するべきなのに、実際にはおいらたちは国にすら信頼されない、信用ならないならず者として扱われる訳だ。だからこそ、どこかから与えられる数少ないチャンスをものにし、信頼を積み重ねていかなければならない。

そりゃあ、奴隷にもなるよ。詐欺師にだってなる。おいらはどっちかっていうと、病気になる可能性の方が高そうだけれども…。

コメント

_ しま ― 2009/07/11 09:31:51

言いたいことは判るけど、一個だけ補足。

価格(見積もり)が不明確な点はそうなのだけれど、ユーザー企業を中心としてFPベースでの見積もりを推進していこうという動きはあります。
一応動いてはいるのですよ。でも、やはりというか大手が中心なのでSI業界全体までに広がる気配がないのがなんとも。

それと、直接の原因ではないけどシステムの概要(イメージ)段階での一括請負が中心という契約モデルありきはどうにかならんのかなぁと常々思っています。「ソフトウェアマネジメント プリンシパル」には複数の契約モデルが載っているし、マコネル先生だったかも要件定義と設計以降は別契約にしろといっているのだけれど……。

愚痴ばかりですいません。

あ、それから長期休暇中なので時間があえば遊びに行きます。
# のちほど私信にて。

_ T.MURACHI ― 2009/07/11 20:36:19

>しま

ファンクションポイントかぁ。理想だよなぁ…。
とりあえず見積もりの為の工数を割いて貰えるような仕事がしたいっ (苦笑)

> システムの概要(イメージ)段階での一括請負が中心という契約モデルありきは
> どうにかならんのかなぁ

作り手としては、どうにかして欲しいって思う訳だけれども、その一方でシステム構築にいくらでもお金をかけられる訳ではないっていう顧客であれば、最終的に費用がどれだけかかるかは明示できません、なんてのは受け入れにくいだろうし、要件定義だけでお金を取るのもなかなか受け入れて貰えないものなのかもなぁとも思う。
まぁ、それをやるコンサルが幅を利かせるような世界であれば、そんな心配をする必要もないんだろうけどね。コンサル真面目に仕事しろよコンサル…。

長期休暇了解ですw おいらも休みてぇ~wwww

_ しま ― 2009/07/26 11:02:33

> ファンクションポイントかぁ。理想だよなぁ…。
> とりあえず見積もりの為の工数を割いて貰えるような仕事がしたいっ (苦笑)

それから発注価格とは別ですが、受けるSI側がFPでもなんでも蓄積データがない限り実工数・スケジュールはでてこないんですね。なので、まずデータ収集から始めないといけないのがとても大変なことなのです。
でも、それを行っている企業は確実に見積もり精度を上げているそうです。(Capers Jones先生の書籍にかいてあるはず)

それと、正直言って見積もりは工数もらうほどのことではない気がします。特にFPやCOSMIC-FFPの場合は。なぜなら入力情報が少ない、というか情報ができている前提でそこからFPの算出が比較的容易だからです。
FPの欠点はシステム分析をある程度行わない限り算出できないことで、COSMIC-FFPも若干早い段階で算出できますが基本は同じです。


> 作り手としては、どうにかして欲しいって思う訳だけれども、その一方でシステム構築にいくらでもお金をかけられる訳ではないっていう顧客であれば、最終的に費用がどれだけかかるかは明示できません、なんてのは受け入れにくいだろうし、要件定義だけでお金を取るのもなかなか受け入れて貰えないものなのかもなぁとも思う。

これは業界全体の認識を変えていくしかないのかなぁとか。
いつ頃からか「建築業界とソフトウェア業界全く異なる」といわれ建築業界の考えや方法を嫌悪するようになりましたが、家を建てる際の契約方式なども調べてみると参考になる気がします。
自分も知りたいのですが、まだ資料は当たっていません。

それから、要件定義というかFPやCOSMIC-FFPなどのある程度信頼性の高い見積もりの入力情報を元を作るのは発注側の責任だと思っています。そのサポートとしてSIが参加するのはいいのですが、それはやはりコスト負担してもらうのが筋でしょう。

むらちさんも判っていると思いますが、一番の障壁は商習慣です。ただし、(発注側)大手企業を中心にいい方向に向かいつつあるようです。時間はかかるでしょうがあきらめることはないと思います。

# 私信、送り忘れていました。ごめんなさい。
# 近いうちに送ります。

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