議員内閣制と官僚依存体質からの脱却; むしろ行政府を立法府の手中に2009年09月19日 21時08分17秒

はてなーの反応の多くがちょっとアレなので、選挙前に買った←の本からの引用を交えて補足してみようと思う。この本は政策のレジュメとしても役に立つので、興味のある人は読んでみるといいと思う。

直接的に関連する記述は本の中の見出しで言うと「100人超の議員を内閣に送り込み、官僚依存体質から脱却する」ってやつ。p.113~115。それから、間接的には「政治任用ポストを大幅に増やす」(p.131~132) も関係してくると思う。他にもあるかな? おいらも勉強不足なもので…。

まず「100人超の~」の方から。まず大前提として、日本では議員内閣制を敷いていて、国会議員が国会議員の中から、行政府の長である内閣総理大臣を任命し、そしてその内閣総理大臣が行政府の主要ポストである各省大臣等を任命している。多くの場合、大臣、副大臣、政務官等のポストの多くを国会議員が請け負うことになる。

この制度の目的は、国の実際の運用を行う行政を、立法府のコントロール下に置くことにある。しかしながら、従来の体制においては、大臣・副大臣等が行政の実際の運用を把握し切れておらず、その説明責任を官僚に一任してしまうケースが多かった。すなわち、実態として立法府が行政府をコントロールできていなかった。

今回のニュースに対して、「官僚主導を打破し、政治主導に切り替えるという民主党の公約は反故にされた」と感じる人が多く出てしまうのは、現状のこうした実態を前提として考えているからなのではないかと思う。つまり、多くの人は、「政府=行政 (官僚と同類か、もしくは官僚の操り人形)」と考えてしまっている。しかしながら、民主党は、そもそもこうした実態そのものを覆したいと考えている。

政府が官僚主導となれば、どんなに党が政治主導で (すなわち民意に沿って) 動こうとも、官僚からの反発に押しとどめられて立案が進まないという事態に陥る。政治主導とすべきは政府そのものであり、そのためには、議会議席における党員がもぬけの殻になろうとも、多くの議員を内閣に送り込み、そして政策立案の場を政府に置くことで、議員の官僚に対する発言力を高める必要がある。

民主党は副大臣・政務官に加えて内閣に大臣補佐官のポストを新設し、国会議員を充てるという。また、衆参一人ずつの官房副長官も増員するほか、現在は官僚が占有している官房副長官補にも国会議員を充てる。しかも、政治主導をさらに確実なものとするため、民主党内閣では、党の幹事長や政調会長までが入閣するという。

党幹部を含め、それだけ大挙して主要な政治家が内閣に入ってしまうと、党がもぬけの殻になり、党運営がままならないのではないかと心配される向きもあろう。だが、民主党政権では、与党が内閣と一体化するのだという。

つまり、民主党が政権を取れば、党の政調機能は停止され、政策立案は党の政調がまるまる引っ越してきた内閣ですべて行われるようになる。これまでのような、官僚主導の政府と政治主導の党という二重構造は、政策立案における透明性を欠く。民主党のこのやり方は、それが族議員の跋扈を許したという反省の上に立っているという。

事務次官会見の廃止とも繋がる話で、政策に関する詳細な点にまで、これらの政府入りした議員 (または議員により任用された民間人)、そしてそれらを束ねる各省大臣が把握し、説明責任を果たす。そのための改革であるとも言える。

なお、これは当たり前すぎるくらい当たり前のことだが、民主党政権では国会の本委員会 (各論を議論する小委員会は除くという意味) での答弁は政治家に限定されるようになる。

現在は政策の細かい話になると、政治家が官僚に答弁をゆだねるシーンをたびたび目にするが、民主党政権では答弁はすべて政治家に限られる。つまり、政治家は細部まで政策や法案を把握していなければならない。いよいよ政策立案も、霞ヶ関の官僚にお任せできなくなるという意味では、政治主導に大きく近づく。

ただ、以下に引用するとおり、政府が政治主導で回るようになっても、彼らが民意から外れるような政策を打ち出してきたときに、それに対する批判の声を逐次届けていくようでなければあまり意味がない。官僚によるパターナリズムが民主党によるパターナリズムに変わるだけでは意味がないのだ。だからこそ、メディアの役割、責任は大きくなる。しかし、それが従来の記者クラブ占有で政府会見が閉ざされたままということになれば、政治と大手メディアの談合により、有権者による重大な指摘の機会が失われることになりかねない。政府会見の記者クラブ外への開放が非常に重要な改革の一つであると言われるゆえんがここにある、というわけだ。

しかし、それと同時に、民主党政権下では、政治がおかしなことをやらないよう、われわれ有権者が監視しなければならない。政治主導が実現すれば、われわれ有権者の責務も、以前よりずっと大きくなることを覚悟しておく必要がある。

はてブで以下のように指摘する方がいらっさいましたが、これはまさにその通りだと思う。

  • vatista99 記者クラブを全面廃止してからにしろ

首相会見の開放が反故にされた件についてはおいらも気にしていたのですが、岡田外相が自身の会見では開放することを明言したほか、「これからも、徐々に開放を進めて参ります。」とする松野官房副長官の言質が議員のブログで公表されたということもあり、当面は信じて待とうかなという気になりつつあるところではあります。頼むよホント。

もう一つの「政治任用ポストを~」の方もまさに政府を政治主導で埋め尽くせ作戦の一環、というお話です。主要部分を引用しますね。

まず、民主党は公務員を三段階に分け、それぞれに独自の任用方法と独自の機能を持たせるという。

一番上が首相や大臣の周囲に置かれるスタッフである。首相の周りには国家戦略スタッフを、大臣の周りには政務スタッフを置く。これは首相や大臣が自由に採用できる政治任用ポストで、官僚が任用されることもあり得るが、民間が中心になるという。政治任用なので、大臣が替わったらスタッフも職を退くことになる。いわば総理や大臣と一蓮托生のポストだ。現在の役所に置き換えれば、次官、官房長、審議官クラスがこれに当たる。

その次に現在の局長クラスがくる。これも政治任用ポストになる見込みだが、大半は公務員が占めることになるだろうという。しかし、局長以上のポストは、ある程度政権の側で決めることが必要だと民主党は言う。

官僚の上層部を大臣とセットでポータブルな立場にするのは重要。 現場の論理やお仲間意識に拘泥されるのを防ぐためでしょう。その下も政治任用としておくことで、抵抗勢力はいつでも首を切れる体制とし、公務員に対する議員の優位性を高める狙いがあるのでしょう。

以上、おいらもこの辺は専門の人ではないので、認識に誤り等あればご指摘いただければと思います。結論としては、少なくとも政治主導への切り替えという公約がこれによって反故にされるという話ではないし、そもそもマニフェストとして選挙前から言ってきたことですよ、というお話な訳ですね。ちゃんちゃんと。

コメント

_ 徳保隆夫 ― 2009/10/09 19:37:10

議員立法に関しては、従来も与党側は「原則禁止」でした。民主党政権でも、それ自体は変わらないはず。議院内閣制なので、立法と行政は密接に結びついているわけです。とすると、わざわざ国会法を改定してまで「原則禁止」をルール化しようとしているのは、「原則」をもっと厳しくしようということでしょう。最近では臓器移植法改定案が議員立法でした。自民党の重鎮から最終的に通ったA案への反対がゾロゾロ出ました。自民党総務会を通過できない案だったと思う。それでも、超党派の支持を集めて成立しましたよね。もともと例外的な与党議員による法案提出を、現状以上に縛る積極的な意義がわからない。行政府との一体化を進めたって、「政党の枠組みと異なる価値観対立」が存在するテーマについては、相変わらず議員立法の存在意義は無視できないと思います。外国人の地方参政権、女系天皇実現、靖国神社に代わる慰霊施設の設立などが、自民党政権下で、与党側議員による法案提出を念頭に検討が進められていた話題の例です。いずれも総務会を通らない案ながら、超党派の賛否を総合すれば勝算がある、といわれていました。これらを見るに、閣議決定された政府方針を実現する法案に総務会がNoという問題と、議員立法の禁止は結びつかないと思うんですよ。政府案に対抗して総務会が政党案をぶつけて国会がひっくり返ったことなんかないじゃないですか。長くなりましたが、ようするに何がいいたいかというと、与党議員が法案を提出するのは、過去の事例を見るに「党の意見がまとまらない」ときなんです。現在の政党の枠組みが、どんな問題に対しても有効とは限らない。超党派の賛否を問うべき問題も世の中にはある。なのに与党議員が、与党に属しているというだけで法案を提出できなくていいのでしょうか。……とはいえ、喫緊の問題はたいてい政府が責任を問われ、何らかの案を出さざるをえなくなるので、議員立法が原則禁止でもすぐにみんなが困るようなことはほとんどないとは思います。

_ T.MURACHI ― 2009/10/17 12:29:03

>徳保さめ
今日までコメントに気づかず公開が遅れて申し訳ないです…。

> 「政党の枠組みと異なる価値観対立」が存在するテーマについては、
> 相変わらず議員立法の存在意義は無視できない

そうですね。だからこそ、神保さんも書かれているとおり、有権者による監視 (実質的にはメディアによる監視) が重要になってくるのだと思います。

ただ、超党派で賛同を集めることが、国会運営として必ずしも健全な形であるとは限らない可能性には注意する必要があるように思います。
少なくとも、そのような法案はマニフェストからは外れるものとなるでしょうから、それがどのような文脈で民意を反映しているものなのか、政府が事前に十分に調査を行う必要はあるのではないでしょうか。そうした政府としての「仕事」をさせるために、個々の議員が政府に働きかけを行うことはアリでしょう (落選してしまった保坂展人氏なんかには、そうした働きを正直期待していました…なんでのぶてるやねんT-Tそんなにイケメンが重要なのかT-T)。もちろん、事前の調査も個々の議員が事前に独自に行うのもアリです。政府の仕事としてはその裏取りだけになるわけだからむしろ歓迎すべき事でしょう。
しかしそうした事前の準備無しにいきなり法案の提出から、というのは順番が逆だと思うのですよ。

臓器移植の件に関していえば、あれは 3年後の見直しが行われないまま 10年放置されてしまった末の議員立法でした。そういうことが起こってしまうこと自体が異常なのです。WHO だって痺れを切らすわけです。
で、そういう事態に陥らないようにするための 100人入閣であるはずです。まぁ、人数の問題なのかといわれると正直シロウトのおいらには何とも言えんのですが (^_^; 、とりあえずはお手並み拝見してみようジャマイカ、とか思ったりするわけなのですよ。

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