真面目な教師が問題を抱え込む時代2006年08月21日 11時58分32秒

先日、こちらの記事にて、RFID を用いたセキュリティーシステムが子どもの仲良し分布を調査する目的で利用される可能性が示唆されている件を取り上げた際、コメント欄におけるやり取りにて、担当教師のブログ記事から読み取ったこととして、「どうやらいじめ問題などは教師ががんばって防がなきゃあかんもんだと考えているよう」だと書きました。そして、おいらの意見として、子どもの交友関係や生活実態を把握することは教師の仕事では無いとした上で、児童・生徒間で起こった交友関係上のトラブルについてまで、教師や学校が必ずしも責任を負うべきではない、ということを書きました。

タイミングよくして、こうしたことについて関係の深いニュースを見つけましたので、以下に紹介します。

おいらが中高生だった 90 年代初頭、いや、もうちょっと前からだったかもしれませんが、「サラリーマン教師」という言葉が取り沙汰され、廃止されてゆくクラブ活動の実態や、週休二日制の発足などに対して批判的な声が少なくない時代がありました。当時のメディア、そしてそのメディアを見てきた保護者の皆さんは、口をそろえて「今の学校・教師には常識が無い」と叫んでいた、そんな記憶があります。

上記の記事については、今朝、テレ朝の「スパモニ」にて、上記記事と同様のニュースを取り上げていたのを見て知ったのですが、この中で取り上げられている「保護者の声」とやらの例を見るにつけ、そもそも「常識」ってのは誰のためにあるんだろうなぁ、などと思ってしまうわけであります。

「常識」という言葉が通用するのは、そこに「密接した社会」が存在することを前提とするものである、とおいらは思います。実際には、「常識」などというのは個人が各々において、ごく個性的に持っているものであり、万人どころか、ほんの少し社会の枠組みを広げただけでも簡単に食い違ったりするものです。家庭での常識は地域の常識にあらず、地域の常識もまた、国の常識、世界の常識ではない、といった按配です。そして、例えば「地域の常識」というものが存在するのだとすれば、それは、その地域社会にコミットしているいくつもの家族が寄り合い、折り合いを合わせて醸成するものであり、その範囲は家庭内で醸成されるものよりも、ずっと狭い、ごくごく限定されたものであるべきです。

生っぽくて俗っぽい言い方をするならば、家庭には家庭の事情があり、地域にもまた地域の事情というものがあったりするわけです。時にこれらに対してマスメディアが干渉し、場合によっては社会現象やスクープとして取り上げられてしまう場合さえあったりします。毒カレー事件を通して取り沙汰された新興住宅地にありがちな対人関係だの、酒鬼薔薇事件を通して取り沙汰された少年犯罪心理だの、ルーズソックスの流行で取り沙汰された都内ガングロ女子高生の夜遊び事情だの、「当事者」の枠組みに押し込められた人々にしてみれば「ほっとけ」と言いたくなるようなことが、メディアによって、さも問題であるかのように取り扱われたりしてきたわけです。

そうした背景を踏まえたうえで、上記の記事を読み返してみると、イマドキの保護者というのは各自において独自の「常識」とやらを、なんだかやたらと社会に対して押し付けようとする世の中になってしまったんだなぁなどと思ってしまうわけです。この点については、おいらも最近結構身近に感じる出来事があったりして、実感として感じている部分も少なからずあったりするわけですが、それでもそういうケースというのはある程度「特別なもの」であるという、性善説に基づきそうな、甘い、願望にも似た気持ちも同時に持ち合わせていたわけです。今後は対人関係において、よりいっそう慎重さを持ち合わせて行動せなあかんなぁなどと、身の引き締まる思いで一杯です (ゴメンさすがにこの辺は棒読みw)。

話を本題へと移しましょう。こうした現状に対して、教師、そして学校はどう、臨むべきなのでしょうか。ここで、先に取り上げた産経新聞の記事の締めくくり部分、「学校保護者関係研究会」メンバーの嶋崎政男・東京都福生市教委参事の提案と、同研究会を発足した小野田正利教授の言葉を、以下に引用しましょう。

このような保護者への対応として、嶋崎参事は(1)複数の教師で対応に当たる(2)専門家のアドバイスを受ける(3)マニュアルを作る(4)事前研修の実施-などを提案する。

その一方で「学校に無理な要求をする保護者は皆何らかの問題を抱えている。その解決のために学校と話したいという意思表示と考えるべきだ」とし、要求を機に保護者を“味方”に変える努力を呼びかける。

小野田教授は「たてつかない弱者をいじめる“言った者勝ち”の傾向が社会に蔓延(まんえん)している」と指摘。社会問題としてとらえ、第三者機関の設置や学校の“守備範囲”の限定を訴えている。

島崎参事の 4つの提案事項については、おいらとしてはちょっと「場当たり的だな」という印象を受けます。しかしその一方で、小野田教授の訴えかける、「第三者機関の設置や学校の“守備範囲”の限定」というのは、非常に重要な課題であると思うのです。

ここでまた、RFID 友達分布調査の話題で渦中にある石井教諭のブログ記事に視点を移すのですが、石井教諭のように、子どもや、子どもを取り巻く環境が織り成す社会問題全体を、自分が教師として、あるいは学校全体として、一定の責任を持って臨まなければならない問題であると認識している教師は、決して少なくは無いと思うのです。そして、そういった教師の方々の苦悩が、結果として、うつ病を患って休職する教師の続出、という現実を招いているのではないかと思うのです。

これは、由々しき事態です。ここまで読んで、多くの方々は、非常識で過保護な保護者たちに怒りの矛先を (一時的に) 向けていらっさるかもしれませんが、その一方で、度重なる教育関係の話題を小耳に挟むたびに、教育者には子どもが見習うべき立場として、もっとしっかりして欲しいという思いを、これまで無責任にも抱いてきた方々というのは決して少なくは無いはずなのです (ここで一息落ち着いて冷静に自己を見直して欲しい)。あまりにも多くのことが学校教育に対して期待され続けた結果、あまりにも多くの問題を、責任問題として、学校、そして教師が抱え込まなければならない現状が醸成されてしまったのだとしたら、それはあまりにも悲しく、寂しい出来事です。学校という場にはより明確な存在意義があって然るべきであり、教師もまた、一人の人間として、その人権が認められて然るべきなのです。保護者が学校を通じて子ども社会に問題を見出したならば、学校や教師にその解決を押し付ける形ではなく、また、国や自治体の方針に乗っかる形で学校が (半ば盲目的に) プロジェクトを推し進めるのでもなく、自分たちの地域における現状を見つめなおした上で、学校側と保護者全体と、そして当事者であるはずの子どもたち自身と (ここが本当は最も重要) がお互いに協力し合って、解決のための方策をつど模索してゆくべきなのです。

そんなわけで、学校側と保護者側との対話というのは重要だという話になるのですが、おいらとしてはそれ以上に、教師の方々の意識のあり方として、様々な問題に対して硬直してしまい、問題意識を抱え込み過ぎるようなことがないようにするのもまた、大切であると思います。これについては、単純に教師の気の持ちようという部分もあるにはありますが、メディアによる報道や、国や自治体などのお上からの要請、そして一部の声のでかい保護者からの強い要望などが、教師が問題意識を抱え込みがちな状況を助長しているという側面もあるのではないかと思われます。そうしたことに対抗できるだけの、教師の職場環境の改善、学校組織の体制のあり方などが問われるときなのではないでしょうか。その、一つの解決案として、小野田教授の訴えかける「第三者機関の設置や学校の“守備範囲”の限定」ということが、今後は重要になってゆくのではないかと、おいらは思うわけであります。

コメント

_ @DRK ― 2006/08/21 19:29:32

家計はそう安々と出すんじゃない、と言ってみるテスト。
泣くぞ。

数年前からこの手の問題は数多く取りざたされてきているが。
教師の仕事は基本的には読み書きそろばんを教えるだけだと思っている。後は子供の安全を確保するように努力する事(あくまで努力義務でしょ)。
それ以外は、教師としてではなく一人の大人としてアドバイスできるに過ぎない。
教育基本法はどうなってるかは知らんが。

みんなさ、金八先生に幻想抱きすぎなんだよ。
教育の主役というのは先生じゃなくて親。人として知っておかなければならないことというのは、親が教えてやんないといけないわけよ。それを先生が教えるものだと勘違いしている。
もっとも、親の方も教え方が分からないとかいう理由で先生を頼ってしまうけどね。不真面目なわけじゃないけど、自信がないのかね。
まー、子供をきっちり教育する気がないんだったらそもそも子供作らないでくれと言いたいのだが、荒れそうなので聞かなかった事にしてw

>第三者機関の設置や学校の“守備範囲”の限定
重要ですな。特に後者。
学校が出来る事と出来ない事、6年間の学校生活における金銭の発生、そういったものは、子供の就学前に保護者に説明してやんないとな(後腐れがないように)。
事前に知らせるのと知らせないのとでは、だいぶ違うよ(係争時にも)。

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_ ぶれーくだんす - 2006/09/04 16:37:14

どうも、なすでございます。

独白による、所謂「ひとりごと」でございます。

相変わらず考えが偏ってるかと思いますが、その辺はそんなもんと思っておいてください。

今回はT.MURACHIが以前取り上げたこちら