著搾権はまだ必要ですか?2005年10月05日 11時25分00秒

さらに制度自体が消費者に知られておらず、またDRMなど技術的に私的録音録画の補足が可能になってきたため、「機器や記録媒体購入時にすべてのユーザーが補償金を払うべき」としていた根拠が失われつつあるとしている。

MD や「音楽用」CD-R メディアなんかを購入する場合に、保証金が上乗せされた価格になっているということを認識している人はそれなりにいらっさるんではないかと思います。ただし、権利団体が著作権保護の対象としているコンテンツの録音に用いているのでなければ、補償金は返還してもらえるということを知っている人はあんまりいないかもしれません。象徴的なニュースとしてはこんなのがあるわけですが、このニュースの出来事があるまで、補償金の変換が実際に行われるということはなかったのですから。

DRM については、CCCD が撤退傾向にあること、CD とネット経由でのダウンロード販売との位置付けなんかも十分考慮する必要はあると思います。つまり、DRM が存在することを前提とするのか、存在しないことを前提とするのか。あるいは存在することを前提として、それが技術的ライセンシーとしてどこまでを許可し、何を制限するものとして捉えるべきか、といった部分です。個人的には iTMS のような、DMP (HDD/シリコン搭載型プレーヤー) への転送は制限なしとするやり方が一番便利でかつ理にかなっており現実的かとは思いますが、一方で、TowerRecord が参入に差しあたって提携を結んだ Napster のように、DMP へ自由に転送したい人は別料金! というやり方もアリではないかなぁとも思います。そして、それらを前提とする場合には、以下のような状況が想定されるため、補償金を徴収できる根拠は無いものだと思っています (もちろん、下記の例で恒久的な所有が「不可能ではない」以上、同様の状況想定が補償金徴収の根拠であるとする見方もありうるでしょう)。

  1. 私的複製によって、購入者以外の個人が所有する DMP に音楽が複製される可能性がある。
  2. 1 で複製された音楽は、それ以外の DMP や PC 等に (デジタル的手法による劣化の無い状況で) 複製されることは無い。従って、複製を得た個人がその音楽を所有できるのは、その音楽データを (空き容量確保などの理由で) 削除するまでの一時的な期間に限られる。
  3. 一時的な所有は「視聴」に相当すると考えられる。これによって、複製を得た個人が音楽の購入に消極的になるとする見方はありえないだろう。

また、音楽のネット配信について、iPodなどを補償金の対象とする場合、「補償金の二重取りになるのではないか」という意見があるが、その一方で、 JASRAC関係者は「配信事業者がJASRACに支払っているのはあくまでPCへダウンロードするまでの利用料」との主張を貫いており、同関係者からは「極端な話だが、PCを通じた音楽のコピーをできないようにすれば(iPod課金に関する問題は)解決する」といった発言もなされた。

強調部分は CNET が記事のタイトルにもしている発言です。ITmedia による以下の記事:

では、このコメントが日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫理事による発言であることが明記されています。JASRAC 関係者じゃねーじゃん>CNET (#-_-)

日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫理事は「MDからデジタルオーディオプレーヤーへのシフトが現実に起こっているのに、手を打たずに補償金がゼロになってしまうのは困る」と、これまでの主張を重ねるとともに、「極端な意見ですが」と前置きしながらも「PCを介した録音やコピーができなくなれば問題はなくなる」とも述べた。

ITmedia の記事での記述だと、この発言が iPod などの DMPに対するものなのかどうかもアヤシイし。単純にファイルコピーによる違法コピーの蔓延のことを指して言ってるんじゃないの? (もちろん、補償金は違法コピーが行われることを前提として徴収しているものではないのだから、そうなんだとしてもおかしな発言であることには確かに変わりはないんだけど)

このコメントに関して、多くの Blogger のみなさんから、「これだから JASRAC は…」とか、「そんなに iPod がキライなのか!?」といった憤りと呆れのコメントが飛び出しておりますが、まぁ、補償金を受け取ってる 3 団体 (JASRAC、レコ協、芸団協) の中ではおそらく一番わけわかってない人たちなのだと思われるので大目に見てあげてくださいな。ていうか CNET 煽りすぎw

# もっとも、記事としては CNET と ITmedia のどちらのほうが正確なのかは分かりかねるので、何とも言えないのですが。。。

んまぁ個人的にはこの発言の真意はこれまでこの辺の利権団体の皆さんが一貫しておっさられていたわがままと何にも変わるところのないものなのだろうなと思われますのでいまさらぷーすか言うつもりもなかったりするわけですが。よーするに、音楽をこぴって再生できるメディアじゃないって保証があれば、補償金を取る意味はなくなるんだけどね、っていう、ある意味もんのすごく当然至極なことを、わざわざ消費者の頭に血が上りやすい言い回しでおっさられているだけで、その先にある、だからこーせなあかんという解決案がひとつも提示されていないわけですから、怒ろうにも怒り様がないってもんです。まぁ、強いて言えばもうちっと内容のある発言してみろよ、とは思うわけですが、でも芸団協でしょ、そもそも実のある発言なんて期待できねーしw。

まぁこれがレコ協関係者だったら、とうぜん iTMS の上陸に先立って、事業者としての Apple とは十分協議を繰り返していらっさることでしょうから、似たような発言をしたとしても意味合いに含みを十分に持たせることはできたでしょうね。現実的に見て、携帯用音楽メディアの主流は着実に MD から DMP へと移行し始めている。この流れ自体は誰かに止められるものではない。裏を返せば、DMP に音楽を転送することができなくなるようにするなんてことは、市場原理から考えても絶対に不可能なのは自明で、だからこそ、補償金の課金は必要だとする彼らの言い分の根拠にもなりうるわけです。何しろ彼らが、「今後 iPod の販売から補償金が徴収できるようになるという前提のもとに、iTMS という事業が日本でも開始された」と主張するならば、一応彼らの視点からは言い分に筋を通していることになるわけですから。まぁそれだったら始めっからパブリックコメントなんて募集する意味もヘッタクレも無いんだけどね。

再び CNET の記事に戻って。

今回の審議では、日本音楽著作権協会や日本芸能実演家団体協議会、日本レコード協会3団体の連名で「ハードディスク内蔵型録音機器等による指摘録音から著作権者・著作隣接権者が受ける経済的な影響(速報版)」という資料が提出された。

詳細は記事本文をごらんあれ。これについて、「何で著作権者よりも著作隣接権者のほうが金儲けてんねん」と指摘する Blogger さんもいらっさるようですが、著作隣接権者がいわゆるレコード会社の方々のことなんだとすると、営業、広告、機材調達、レコーディング、ステージの手配などなど、音楽家個人ではなかなか手を伸ばせないインフラを提供しているわけで (人脈面も含めて)、それを考慮すれば、国内だけで 2 倍程度の経済的影響しかないってのはむしろ少なく見積もりすぎじゃね? とか思ったりもしたわけですがどうなんでしょうね?

まぁ最近は録音機材もデジタル化が進んで割と安く済ませられたりするんで、録音技術をしっかり勉強すればレコーディングだけは個人でも結構立派にできちゃったりするわけですが (だから最近は同人が元気なんだな)、先日の Sound Horizon のステージとかを観るにつけ、あー、やっぱりレコード会社のバックアップってのは、音楽家がやりたいことをより大きく実現する上では重要だよなーとか思ったりするわけですよ。


続いて、この CNET の記事に対してトラックバックを飛ばしていたブログの中から、いくつか共感できるコメントを紹介したいと思います。

出た~!恐怖の既得権益発言。他に方法がなかった時代にできた補償金な訳でしょうに。常にゼロにできるように考えていくべきものでは? 今やちゃんと個別に課金できると思うけどなぁ~、本気でホンマにやる気さえあれば…。ちうか、これまでにだってそう考えて来たハズではないの?補償金なんだし。補償金が必要ない制度を目指していくのがスジやん。

おっしゃるとおりだと思います。補償金はあくまで補償金、こいつが徴収できることを前提に業界が組織されているのだとしたら、それは非常に理不尽な話です。そして、音楽の販売形態は、簡単に持ち歩ける CD という媒体をパッケージとして頒布する方法から、持ち歩くのがシンドイ PC という機材へ、ネットワークを介して直接転送するという方法へと移行しようとしています。そして、プログラマブルな手法により、ファイル単位でその利用範囲 (ライセンシー) を制御できるようになっていっています。まさに、技術面では補償金制度が必要ない状況作りが可能になってきています。

OSは知的財産権のかたまりです。知的財産権は脱工業化社会の産業の柱となるものなので、国家戦略として保護されています。独占禁止法の根本は消費者を守ることにあります。今、問われていることは次世代の産業として知的財産権を独占禁止法より上位に置くか、そうでないかといってもいいかもしれません。知的財産権が独占禁止法より上位にあるとなれば、消費者の権利が制限されるのは当然です。

その観点から考えると、今回のJASRAC関係者の発言は、それ自体が時代錯誤の発言であっても、結果として消費者の意見より上位に来てしまうということです。だから、この発言をめぐる論議は、単にiPodに録音できるかどうかといった問題ではなく、もっと深い問題につながることまで考える必要があると思っています。

音楽産業の経済効果は微々たる物だといわれています。しかしソフトウェア全般ともなれば話は違ってきます。ちょっと話はずれるかもしれませんが、そういえばビル・ゲイツもこちらの記事で、オープンソースコミュニティに見られるサポート販売モデルと、従来のパッケージ販売モデルに対する見識として、以下のように語っています。

私は常に、安価な製品を大量に販売することが重要だと考えてきました。しかし、それは無償であってはなりません。ソフトウェアを利用することによって、ユーザーは労働時間、ハードウェア、そして通信費用を抑えることができます。その総額は、パッケージソフトの価格をはるかに上回るはずです。それに比べたら、ソフトウェアの価格は誤差の範囲です。システムが顧客にもたらす価値は、システムの価格をはるかに超えるものとなるでしょう。私はひとつのモデルに固執しているわけではありません。やり方はいくらでもあります。しかし、ライセンス料を放棄するような企業が、多額の研究開発予算を割いて、大学の研究室では対応できないような困難な研究に取り組むことはないと思います。しかし、それでも問題はありません。市場には--願わくは--商用ソフトウェア産業が存在するからです。この業界で活動する企業は、長期的な視野から投資を行い、新しいブレークスルーを促進していくでしょう。

なるほど、こういうのを経済活動というんだよな、と感心させられます。人が働くのは、何も飯を食うためだけではない。もっともっと、高次元な望みがあって然るべきだとつくづく思います。まぁ、その発言が、自社が発売するソフトウェアの価格が適正であることを証明するわけでは、全然無いんですけどね。

独占禁止法に関して言えば、EU での Windows Media Player の扱いに見られるような、必ずしも消費者を保護する目的で使われていないケースもあったりして、ちょっと微妙ではあるのですが。。。

こちらは、関連記事として 1時間あれば出来るiPod課金反対のパブリックコメント提出方法>法律知識分からなくても誰でも出せます という記事も書かれております。パブリックコメント募集の締め切りは今週の金曜日まででもうあと何日も残っていませんが、文化庁に物申す! という方はぜひご一読されることをお勧めします。