転載には問題点もある。2007年03月10日 01時17分59秒

転載問題の記事がじんわり反響を呼んでるっぽいので追記。前回の記事は徳保さんの「大概のブログ記事はパブリックドメインであるべき」的な論調に乗った形のものだったわけですが、一方で Yahoo! Blog の転載機能が提供しているような「まんまコピー記事」を生成するだけの転載行為が内在する問題点についても記述しておくべきかと思ったので、やっぱり書くことにします。徳保さんとこにも tb 送っておきますか。

実際のところ、著作権だのチェーンだのというのは、あんまり問題ではないと思っています。困るのは、読者が情報源を特定したい、もしくは特定する必要がある場合に、それを特定するのが難しくなってしまう可能性があるという点です。

例えば、とある開発ツールにおいて、ある問題を解決する為の情報を、そのツールの開発元企業のサイトにおいて公開していたとします。そして、その情報は、オリジナルの URL へのリンクを示すことを条件に、一部ないし全部を自由に転載可能、としていたとします。

何人かのブロガーが、その情報を転載して、お役立ち情報として記事をでっち上げたとします。その中には、多くの人が参照する、その筋では大手と呼ばれる定番ブログも存在するかもしれません。

さて、あるとき、その情報には一部、重大な誤りがあり、訂正が必要になったとします。そして、訂正された正しい情報の記事が、何らかの事情により、元々掲載していたのとは異なる URI で掲載してしまったとします。

この例はあまり良い例では無いかもしれません。しかし、Microsoft の MSDN Library は、過去に技術情報のページ構成や URI を何度も変更しており、そのことを知っている Windows 系の技術者は、URI をメモする代わりに、記事内容そのものを自身のブログへ転載してしまいたいと考える可能性は大いにあります。しかし、転載したバージョンの記事に、もしも重大な誤りが含まれていたとしたら、間違った情報を延々垂れ流し続けるという結果になります。

参照数の少ないブログであればあまり気にすることではないかもしれませんが、多く参照されているブログには多少なりとも公益性が認められると言えますので注意が必要、ということになります。

しかしいずれにせよ、Microsoft 関連の技術情報は MSDN Library を探せば大体見つかることはそれなりに知られていることですので、多くの場合あまり問題にならないかもしれません。

それでは次のケースではどうでしょうか。A という思想と B という思想が対立する社会において、B 派を自認する人間が、A の思想に不利な感情を想起させる情報をブログ上に公開したとします。

その記事は当初、あまり注目されなかったのですが、数少ない注目した何人かのブロガーがその記事を転載したことをきっかけとして、少しずつ、しかし着実に、鼠算式にその記事が転載されていったとします。

そして転載が繰り返されてゆくうちに、どこがその情報の発信元であったのかが分からなくなってしまったとします。

とあるジャーナリストが、その情報の発信元を検証することによって、その情報の正当性を評価したい、と考えたとします。上記のような状況下において、それは可能なことでしょうか?

「ブログ記事を転載するという行為が当たり前の社会」における常識で考えた場合、特に注記せずそのままの記事を転載してしまうブログも少なく無い、という状況は十分ありうるでしょう。そして A の思想を支持する人であれ、B の思想を支持する人であれ、あるいはどちらの思想にも興味を示さないような人であれ、流布される情報がゴシップ性の強いものであるならば、その記事を「うちのブログにも転載しちゃおう」と考える人は少なく無いかもしれません。「戦争のつくりかた」の全内容が Yahoo! Blog において転載されまくったという事実が、その可能性を裏付けていると言えるかもしれません。

ネット上であれなんであれ、情報を探す人間は、見つけた情報の正当性を評価しようと考えるものでは無いでしょうか。正当性を評価する手段の一つとして、その情報の発信源を特定するというのはとても重要なことであり得ます。例えばセキュリティに関するコメントであれば、T.MURACHI ごときが発するコメントよりも、高木浩光氏が発するコメントの方が、一般には信頼性が高いと評価されています。

転載という行為が一般化し、それが横行されまくるようになった結果、情報源の特定が難しくなるような状況が生まれるのだとすれば、情報の責任の所在を見極められないネット上の情報に、価値を見出す人は少なくなってしまうのでは無いでしょうか。だからこそ、むやみな転載行為は、ネットマナーとして非推奨とされるべき、がネット上の常識として、確立されていったのでは無いでしょうか。

そのような文脈において、Yahoo! Blog が提供する転載機能を考えた場合に、果たして問題があるのか無いのか、といったことを評価するのは、議論としてそれなりに実りがあるのでは無いか、と思う次第です。

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