突っ込もうかどうかちょっと迷ったけど ― 2006年12月26日 11時02分05秒
Winny 判決問題についてはこの辺で既にだいたいまとめたつもりで、これ以上はもう触れないつもりだったんだけど、念のため。
高木氏のブクマでのコメントについては、少なくとも口調に関しては面白がってやっている部分もあるので (^_^; 、逆鱗に触れたとか、そこまで気にする必要はないと思います。もっとも、ブクマであっても高木氏の書いてる内容は大概正しいんだけどね。
一つだけ。
私は「価値は中立としながらも有罪を言い渡した(奇妙な)判決」を概ね支持している。
法律の空白地帯で有罪判決が出るのは司法の暴走(立法の怠慢)という意見もあるが、Winny の真っ黒な使われ方を考えればやむを得ない。
これは、高木氏の「Winnyは悪くないよってか?」に対する回答になってないです。これだと、「Winny は悪くないけど、使われ方は悪かった。金子氏は (その立場的に) 罰金 150 万ぐらいでも仕方ないと思う」ぐらいの意味合いになっちゃいそうなのですが、それに比して、こちらの記事での
Winny はピストルである。果てしなく「真っ黒な(使われ方をする)道具」と言っていい。
との記述とのバランスは悪いように思います。
思うに、先の Winny 判決に対して、興味ある方々の抱く感想は、大きく以下の 2 つに別れるように思います。
- 判決内容は奇妙だが、量刑は妥当だ。
- 量刑に興味はないが、判決内容には不安を覚える。
Voice さんの感想は (1) であると思います。同じような感想を抱いている方は実にたくさんいます。おいらの身近な友人も大概はこちらの感想を抱いているようです。
対して、おいらの感想は (2) です。こちらは実際にソフトウェア開発に従事している技術者に多くみられる反応です。特にフリーソフトウェアを開発・配布しているような人はこうした感覚を如実に抱いている傾向が強いです。スラッシュドットでの反応や、Matz 氏、dankogai 氏などの反応などが参考になると思いますし、高木氏ももちろん懸念を表明しています。
もちろん、Winny を完全に肯定する人々もいないわけではないようですし、そういう人々は間違いなく今回の判決を「不当判決」とみなしているでしょう。しかしそういう人々と (2) のような人々は、多くの場合同調しません。Winny を必要とするか否かという前提条件が違うからです。
で、多くの一般の方々が (1) のような反応を示すのは、ある程度仕方のないことだと思います。彼らは恐らく、今回の判決骨子における論理的破綻には興味がなく、ただ雰囲気として、金子氏にその程度の罰が与えられるのは「仕方がない」と感じているのでしょう。他の事件の判決がワイドショーなどで報じられる際に抱く一般的な感慨とまったく同じです。要するに、厳しい言い方をするならば、当事者感覚がないのです。
なお、ここで言うところの「当事者感覚」に、実際に Winny を使用していた経験があるか否かはまったく関係ありません。ここで言う「当事者」とは、金子氏と同様に、何らかのソフトウェアを開発し、配布している人々、およびそういった仕事に従事している人々です。何故なら彼らは、今回の判決如何では、金子氏と同様の理由により、罪を問われる可能性が出てくるかもしれない人々だからです。
(2) の感想を抱く人々が望む判決は、以下のいずれかです。
- Winny は技術的に中立であり、Winny 自体に違法性はない。よって、無罪。
- Winny の機能 (または機能的欠落) のこの部分に問題があり、違法である。よって、有罪。 (「この部分」については、実際には判決文中にて具体的に明記される)
- Winny の機能 (または機能的欠落) には問題があるが、現行法によってそれを罰することは出来ない。よって、無罪。
Winny においては (a) は有り得ない事が高木氏より既に説明されています。この説明に関する非常にわかりやすい解説が Tariki 氏によって書かれています。どちらもご一読されることをお勧めします。
しかし実際の判決内容は、以下のような内容のものでした。
- Winny は技術的に中立であり、Winny 自体に違法性はないが、金子氏の発言および行動から、著作権侵害に利用されている現状を認容していたと認められる。よって、有罪。
これはつまり、結果として、「何を作ったか」という部分については重要ではなく、作った人間の態度や発言が評価された結果の判決であったと見ることができます。
そう、何を作っても、罪に問われるときは罪に問われるということです。そのツールに技術的問題点があるかどうかは、あまり重要ではないのです。
例えば、Winny に見られるような機能的問題点がないにもかかわらず、著作権違反の蔓延に一役買っているツールが存在します。そのようなツールは、例えばこの辺のサイトなんかを覗いてみるとたくさん見つけることができたりします。
ファイルアップローダが違法ファイルの配布に利用されている場合、その責任は本来、実際にファイルを up した人間か、またはファイルを削除できる権限を持つサイト管理者が負うことになります。ファイルアップローダ自体は技術的にはごく単純で比較的作るのは簡単なプログラムであるため、サイト管理者が自分でそのプログラムをこさえている場合もありますが、多くの場合、ずるぼんアップローダなどの既成ツールを適当にカスタマイズして設置していたりするようです。
Web 上でファイルのやり取りを行いたい場合に、このようなファイルアップローダの類は非常に便利なツールの一つですが、一方で、実際の利用形態は、匿名でアクセスし、パスワードをかけた謎の zip ファイルが大量に up され、そしてそれを解除する為のパスワードが 2 ちゃんねる等で記述されていたりする、というものが多かったりします。その中身は mp3 であったり、雑誌やエロ漫画をスキャンした画像であったり、といったものが大半です。
さて、こうしたアップローダを利用して違法ファイルのアップロードを繰り返していた人間が、ある日摘発されたとします。そして、彼らの犯行を幇助した罪として、アップローダの開発者が逮捕されるとしましょう。
本来、この開発者は無罪であるべきです。アップローダは Web 上でのファイルのやり取りには非常に便利なツールであり、特に個人サイトで各自の作った作品 (お絵かきした絵とか、写真とか、自分で作曲した mp3 とか) を見せ合いっこするような用途には便利です (ブログが流行る以前はネットユーザーでも自分でサイトを立ち上げる人は決して多数派ではなく、数人で共同でサイトを立ち上げ利用するケースが少なくなかった為、掲示板やファイルアップローダといったツールは重宝されていました)。そして、Winny のように一度ネットワーク上を流通し始めたファイルの実質的な管理が不可能になってしまうようなシステムとは違い、大概のファイルアップローダは up した本人かサイト管理者がファイルを管理することが出来るようになっています (仮にそういう機能が無くても、サイト管理者であれば ftp からディレクトリにアクセスして直接ファイルを削除することも可能であるため、それほど問題にはならない)。
しかし、Winny 判決のような判例があれば、こうしたファイルアップローダの開発者も、罪に問われる可能性は 0 ではなくなります。彼らとて、「ファイルアップローダが一般の人に広がることを重視し、著作権を侵害する態様で広く利用されている現状を十分認識しながら認容した」と看做される可能性は、無いとはいえないのです。
もちろん、実際には、金子氏は 47 氏として 2 ちゃんねる上で過激な発言を繰り返しており、そういう意味での特殊性も決して無視はできませんが、しかし今回の判決が、多くのソフトウェア技術者、それも特別な悪意無くプログラムを個人で配布しているような人々にとって、一定の不安を与えるものであったことは、間違いないのです。
以上のことを、voice さんが認識していらっさるかどうか微妙でしたので、指摘させていただくと同時に、改めて今回の判決についてのまとめとさせて頂きたく存じまする。べべん。
ちなみに、公金 10 億投入の件については、Winny のようなツールに対する規制法の整備と天秤にかけるならば、順番が逆だよなぁという気はしますし、目的として挙げられている、「ネットワーク上のファイル共有ソフトの利用状況を監視し、情報の漏えいを迅速に発見する技術や、漏えいした情報を削除して、被害の拡大を防ぐための技術開発」は、そのまんま字面どおりのことが行われるんであれば、Winny 対策としては確かに無理っつーか無駄ではあるものの、これは現段階ではあくまで提案の一例に過ぎず、実際に開発するものについては今後じっくり協議されていくのであれば、まったく無駄なことだと断言することは (まだ) できないかな、という感じです。その現場に高木氏が加わって軌道修正してくれる、のかどうかはおいらは知らんのですが。
例えば、ウイルス削除ツールのベンダーや Microsoft などと共同で、Winny やそれに類するツールの検索および警告および削除を行う機能を、ウイルススキャンツールなり OS なりに組み込んでもらい、維持していただくとか。もちろん、ツール自体が違法となる法的根拠の整備のほうが先ですが。
コメント
_ hidew ― 2006/12/26 23:56:54
_ T.MURACHI ― 2006/12/27 10:20:13
> あの判決を支持することで、遠回しに「Winnyは悪い」と言っているつもりです。
と、いうことは、「有罪である (量刑は別にして)」ことに対する支持であって、判決の理由に対する支持というわけではない、ということですね? (一般に多く見られる反応と同じ、と言うことになりますが)
で、「金子が有罪だから、Winny は悪い (ことが証明された)」と。 (これも、一般に多く見られる反応と同じ)
はてブにおいても cubed-l 氏から興味深いコメントをいただいているのですが、
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://harapeko.asablo.jp/blog/2006/12/26/1074832
> 技術的に中立=Winnyに問題がないという意味ではないと思う
このような印象を与えてしまう「技術的に中立」という表現にも、問題があるように思えてしまいます。裁判官はこの辺については曖昧にしておきたかったのでしょうか?
> 3. 法律的に悪い - 価値中立の道具を作って犯罪幇助?
>
> 私が「悪い」と思っているのは 1. 2. です。3. は現行法では無理がありそうです。
この点については、おいらも同意です。もっとも、上記の理由で Winny が価値中立とは思わない (もしくはそもそも「中立」という言葉にあまり意味はなさそう) ですが。
> 高木氏の意見もバランスのとれたもので、なんであそこから私に向けて
> 弾が飛んでくるのか分かりません。
高木氏による突っ込みどころは別のところにあるからです (今回、その部分については本記事では敢えてあんまり触れていないのですが)。とりあえず湯浅氏の著述からの引用以降が無ければ、あの突っ込みは無かったと思います。
「公金10億突っ込んで技術的対策に走るより、リテラシー底上げのために啓蒙活動に勤しむのが先だ」という意見が、「Winny を潰すのは後回しでいい (何故なら本質的には Winny そのものが悪いわけではないのだから)」という意見に映ったのでしょう。
だから「両方やるんだよ」と主張していらっさる訳で。
おいらとしては、両方やるにしても、(Winny 潰しの) アプローチとしては、技術的対策よりも法的対策のほうが先だと思っていますが。(って辺りについて、高木氏本人は具体的にどう思っていらっさるのか、ってあたりは、確かに気になるところですがw)
_ @DRK ― 2006/12/27 15:51:15
判決理由が気にならないということはないし、判決そのものも気にならないわけではない。
もちろん多分に問題の多い判決理由ではあるのだけど、法律論を捏ねるほど知識が無いので、やはり自分の観念的な部分に頼らざるを得ないのよ。
その上で、今回のケースは極めて特殊なケースだということは言っておきたいね。というかそうあって欲しい。
特殊と言うのは、今後この判例が一般に採用されるような事がないようにして欲しい、ということ。
それさえ明らかに出来るならば、まあ見せしめの意味での罰金刑は、妥当ではないけどしょうがないのかな、と思う。
ただし。
本来ならば無罪にすべき裁判なので、せめて開発者に対する厳重注意で止めるべきだったと、今でも思う。
この辺はまたtbでも飛ばしとくわ。
_ hidew ― 2006/12/28 00:48:19
高木氏はなんらかのキーワードに過剰反応(脊髄反射)しているみたいです。それが「リテラシー」なのか「湯浅氏」なのか、…。
湯浅氏の著作は、はっきり言うと「当たり前のこと」しか書いてありませんでした。しかし、その「当たり前のこと」さえしっかりやれば、Winnyによる情報漏洩は起こりません。何事も基本が大切ということでIT初心者向けにあの本を紹介しました。
私が書いた後半部は「無駄!無駄!無駄!」「綾瀬メソッド」「善意メソッド」 - こんな調子の居酒屋談義ですから、高木氏のような正統な技術者が突っ込んでくるような内容ではなかったと思います。
余談ですが、「Winny を潰す」方法として、ユーザーのリテラシーの低さを逆用する方法があります。おとり捜査みたいなものです。総務省には金よりも知恵を使って欲しいと思います。
ウイルス感染者は個人情報が漏れているのだから、現行法でも著作権侵害正犯を捕まえることはできます。金子氏を捕まえたのは案外「正犯は多すぎて捜査が面倒くさい。作者一人を捕らえればなんとなく格好がつくだろう」みたいな意味もあると思います。さんざん大騒ぎして最高裁で「無罪」が落とし所じゃないでしょうか。
_ T.MURACHI ― 2006/12/28 02:37:42
>@DRK
> その上で、今回のケースは極めて特殊なケースだということは言っておきたいね。というかそうあって欲しい。
> 特殊と言うのは、今後この判例が一般に採用されるような事がないようにして欲しい、ということ。
> それさえ明らかに出来るならば、まあ見せしめの意味での罰金刑は、
> 妥当ではないけどしょうがないのかな、と思う。
日本は米国的ルール主義と欧州的紳士協定とがごっちゃになって機能不順しちゃったようななんちゃって法治国家なので (参考: http://www.miyadai.com/index.php?itemid=337 )、そもそも当事者感覚を抱いている技術者連中のヒステリーの方がこの国においては非現実的なのかもしれない。そうであって欲しい。いやそれはそれで微妙だけど。
まぁ、控訴審に。。。期待していいのかなぁ。
>hidew さま
> Winny裁判に正解があるわけではない
量刑に正解があるとは思いませんが、技術者の権利と責任は明確であるべきです。(って、おいらも頑固だなー)
あ、ファンヒーターの灯油が切れちゃった。(T-T)
> 私が書いた後半部は「無駄!無駄!無駄!」「綾瀬メソッド」「善意メソッド」 -
> こんな調子の居酒屋談義ですから、高木氏のような正統な技術者が突っ込んでくるような
> 内容ではなかったと思います。
まぁ、技術者も人間ですので \(^O^)/、自分が普段から頑なに主張し公言していることが一般になかなか浸透しない現実を直視し続け鬱積の積もる最中に、半ば発言力の強い人間がやはり同じように間違った (とその技術者当人が思ってしまうような) ことを言ったり書いたりしているのを目の当たりにしてしまうと、ああいう場所で暴言 \(^O^)/ の一つも吐き捨てたくなってしまうものなのですよ。\(^O^)/
ほんと、まともな技術者であればあるほど、頑固ジジイ一直線ですからね。\(^O^)/\(^O^)/
> 余談ですが、「Winny を潰す」方法として、ユーザーのリテラシーの低さを逆用する方法があります。
> おとり捜査みたいなものです。総務省には金よりも知恵を使って欲しいと思います。
kwsk
> ウイルス感染者は個人情報が漏れているのだから、
> 現行法でも著作権侵害正犯を捕まえることはできます。
著作権侵害の立件は親告罪でなければならないので、ウイルスが漏らした個人情報だけでは証拠としては不十分な気がします。特に、Winny の場合はファイルの放流主が誰なのかが技術的に秘匿されちゃう為、ファイルとして持っているかどうかだけでは状況証拠にしかなりえません。
もちろん、キャッシュして中継するだけでも違法だから逮捕、という論理で行けば、Winny 共通の秘密鍵がばれちゃっている以上、中継ノードの特定と、ノードが保持しているファイルの一覧取得は可能なので、大勢の「正犯」を根こそぎしょっ引くことができます。まるでロシア警察のように。っていうか、「それ何てガンジー?」って感じではありますが。。。
しかし検索ロボットのキャッシュを合法化する法案を 2008 年に提出しようかとかいう話が (例の国産検索エンジンプロジェクトに合わせて) 出されようという矢先に、それもやりにくいんじゃないかなぁ。。。まぁ、おいらの知ったこっちゃないけど。w
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_ ふとももおれたー - 2006/12/31 10:49:09
そのWinnyに関わらず思うところがあったので書いておきます。
ただし、私はIT関連ののプ
あの判決を支持することで、遠回しに「Winnyは悪い」と言っているつもりです。
ただ「悪い」の意味がいろいろあって複雑な問題なので、歯切れは悪くなります。
1. 道義的に悪い
2. 技術的に悪い - ブレーキのない設計
3. 法律的に悪い - 価値中立の道具を作って犯罪幇助?
私が「悪い」と思っているのは 1. 2. です。3. は現行法では無理がありそうです。
>.. との記述とのバランスは悪いように思います。
法律の原則を通せば「白っぽい(無罪)」。しかし、一方で著作権侵害をするために使われている現状は「黒っぽい」。Winny裁判の本質はこのギャップにあります。記述のバランスが悪いように見えるのはそのためです。
様々な要素を考慮した上で、私の意見は「作者に道義的責任はあるが、法律的責任まで問えるかどうかは疑問」という所に落ち着いています。高木氏の意見もバランスのとれたもので、なんであそこから私に向けて弾が飛んでくるのか分かりません。